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第Ⅱ章(前半)

長期服用後のベンゾジアゼピンからの離脱方法

 

背 景

私が1982年にベンゾジアゼピン離脱クリニックを始めた時には、ベンゾジアゼピン離脱に十分な経験を持つ人はいませんでした。しかしながら、第Ⅰ章で説明したように、離脱方法についての助けとアドバイスを求める患者自身からの強い要求がありました。そこで、我々は一緒になって手探りではじめたのです。当初離脱は、お互いに試行錯誤の連続でしたが、この経験を通じて、離脱の一般原則 ―― 大多数の人にとって最も有効な方法 ―― が浮かび上がってきました。1994年までにクリニックに通院した300人の患者から導き出されたこの一般原則は、その後英国および海外の精神安定剤依存症患者支援グループを通じて関わった更に数百名のベンゾジアゼピン服用者によって、また多くの国から個人的に連絡があった人たちによっても、その後引き続き確認されました。

間もなく明らかになったことは、離脱の経験は人それぞれで、同じものがないということでした。多くの共通する特性があるものの、個人によりその人特有の離脱症状のパターンを呈します。離脱症状は、タイプ、質、激しさ、経時変化、期間、その他多くの点において、個人により異なってきます。この多様性は驚くべきことではありません。離脱の経過は多くのファクター(要因)に影響されるからです。少し例を挙げると、そのファクターには、各ベンゾジアゼピンの用量・種類・力価・作用時間・使用期間の長さや、処方の理由、患者のパーソナリティ、個人的脆弱性、ライフスタイル、個人的なストレスや過去の経験、離脱速度、離脱中および離脱後に受けるサポートのレベルなどがあります。そのため、これから示す離脱についてのアドバイスは一般的指針にすぎません。各々が、自身の進む道の詳細を見出さなければいけません。しかしこの指針は、様々な家庭環境、職業、服薬歴を持ち、また様々な離脱速度を経た18才から80才までの多数の男女の離脱成功体験から導き出されたものです。成功率は高く(90%以上)、たとえ20年以上ベンゾジアゼピンを服用し続けた人であっても、離脱した人は肉体的にも精神的にも良くなったと感じたのです。

だから、過去に服用歴がある人の多くが、これから離脱を始めようとする人に対して、「本当に離脱を望む人ならほとんど誰でも、ベンゾジアゼピンから離脱することが出来る」と証言することでしょう。しかしあなたの症状が、同じチャレンジをしている他の人の症状と異なっていたとしても(あるいは、あなたには症状がなかったとしても)、驚かないで下さい。


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何故ベンゾジアゼピンを止めるべきなのか?

第Ⅰ章で述べたように、ベンゾジアゼピンの長期使用により、記憶力および認知力の低下、感情鈍麻、抑うつ、不安の増大、身体症状、依存など多くの望まない結果を引き起こすことがあります。それが睡眠薬として使用されようが抗不安薬として使用されようが、全てのベンゾジアゼピンは、このような影響をもたらす可能性があります。ベンゾジアゼピンの長期使用による社会的、経済的影響については、表 3(第Ⅰ章)に要約してあります。

さらに、ベンゾジアゼピンは数週間あるいは数ヶ月間常用すると、もはや効果がなくなることを示唆する証拠があるのです。耐性の形成によって、その効果の多くが失われるのです。耐性が形成されると、たとえ薬を飲み続けていたとしても、服用中に“離脱”症状が出現します。このように、多くの長期服用者が苦しんでいる症状は、薬の有害作用と、耐性からくる離脱作用が混ざり合ったものです。英国医薬品安全委員会(Committee on Safety of Medicines)および英国精神医学会(The Royal College of Psychiatrists in the UK)は、様々な声明の中で(1988年、1992年)、「ベンゾジアゼピンは長期使用に不適当であり、一般に2~4週間に限ってのみ処方されるべきである」との結論を下しました。

そのうえ、ベンゾジアゼピン長期服用者の大部分は、実際に薬を止めてから体調が良くなっていることを、これまでの臨床経験が示しているのです。多くの服用者が、服薬していた何年もの間中ずっと、標準以下の機能状態だったことに薬を止めて初めて気が付いたと述べています。まるでネットのカーテンかヴェールが目の前から引き上げられたかのように、ゆっくりと、時には突然に、色彩が明るくなり、芝生が青々とし、心がすっきりし、恐れが消え、気分が高揚し、身体の活力が回復したと言うのです。

従って、もしベンゾジアゼピンの長期服用者がその薬物療法にあまり満足していないのなら、中止する理由は充分にあるのです。多くの人が離脱を恐れています。しかし、“地獄を味わう”という話はかなり誇張されている場合もあります。以下に概説するように、十分にゆっくりとした個人に合わせた減薬スケジュールを行えば ―― とりわけ服用者が出現する症状の原因や特性を理解し、それ故恐れていない場合には ―― 離脱とは十分に耐えうるものとなり、容易にさえなり得ます。“離脱症状”の多くは、単に離脱の恐怖からくるものです(あるいは、その恐怖に対する恐怖でさえあります)。離脱でひどい目にあった人は、通常、離脱を急ぎ過ぎたり(しばしば医師によって!)、また離脱症状について何の説明も受けていなかったりした人たちです。それとは逆に、中には症状を全く発症せずにベンゾジアゼピンを断薬出来る人たちもいます。複数の専門家によると、一年間の長期服用後でさえそのような患者の割合は50%にも上るようです。たとえこの数字が正しいとしても(数字については議論の余地がありますが)、ベンゾジアゼピンを急に断薬することは賢明ではありません。

ベンゾジアゼピンを断薬することに利点があるということは、必ずしも全ての長期服用者が離脱すべきということを意味しません。誰も意思に反して強要されたり、説得されたりしてはいけません。事実、望まずに離脱に追い込まれた人の結果が悪いことはよくあることです。一方、しっかりと動機付けされた人が成功する可能性は非常に高いのです。前述したように、本当に断薬したいと希望する人ならほとんど誰でも、ベンゾジアゼピンを止めることが出来ます。選択するのは、あなた次第です。


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ベンゾジアゼピンの離脱を始める前に

離脱すると決心したなら、始める前にいくつかのステップがあります。

(1) 医師・薬剤師とよく相談する

医師は、あなたがベンゾジアゼピンを止めることが適切かどうかについて意見があるかもしれません。少数のケースにおいて、離脱が得策でない場合があります。特に米国において、不安障害、パニック障害、恐怖症や、いくつかの精神科的症状にベンゾジアゼピン長期服用が必要と信じる医師も一部にいます。しかしながら、医学的見解は異なり、たとえ完全な離脱は勧められなくとも用量を減らしたり、ベンゾジアゼピンの休薬期間を設けたりして、間欠的に飲むことが有益なこともあります。

薬を処方するのは医師なので、主治医の同意と協力が必要です。多くの医師がベンゾジアゼピン離脱をどのように行うのがよいか不確かなため、引き受けたがりません。しかし、時に応じて主治医のアドバイスを尊重しても良いですが、離脱のプログラムに関しては自分で責任を持ち、自分自身に合ったペースを見つけて離脱を進めて行くつもりであることを主治医に伝えて安心させて下さい。あなた自身が自分のスケジュールを管理するということが重要なのです。医師から期限を押し付けられてはいけません。クウェーカー教徒が「道の開かれたるままに進め」と言うように、あなた自身の道を自由に進めば良いのです。

最初のステージで減薬スケジュールを作成し、主治医にコピーを渡すのは良い考えです(下参照)。いつでも減薬速度を修正できるよう、柔軟性が重要であることを伝えることが必要かもしれません。どこかのステージで、しばらく漸減(ぜんげん)を中断しなければいけない状況が発生するかもしれません。あなたの進捗状況にしたがって、その後のスケジュールを続ければ良いのです。また医師は、新たなスケジュールにしたがって処方を続ければ良いのです。(このことについては全て、この章の後半で解説します。)

最後に、主治医にベンゾジアゼピン離脱に関する文献をいくつか渡すと医師は助かるかもしれません。例えば、第Ⅰ章第Ⅲ章、およびこの章の末尾に紹介されている参考文献が役に立つでしょう。


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(2) 十分な心理的サポートがあることを確認する

サポートは配偶者、パートナー、家族、親しい友人などから得られるでしょう。理解ある医師もまた、アドバイスに加えてサポートもしてくれるかもしれません。理想的には、相談相手は、ベンゾジアゼピン離脱に理解ある人、あるいは、離脱について読み学ぼうとする人であるべきです。離脱を経験した人である必要はありません。酷い離脱を経験した前服用者は、時に、彼ら自身の症状を詳しく説明することで怖がらせてしまうことがあります。臨床心理士、熟練したカウンセラー、他のセラピストなどが、特に、リラックス法、深呼吸、パニック発作の対処法などを教えてくれて助けになることがよくあります。アロマセラピー、鍼治療、ヨガなどの代替療法が効果があると言う人もいます。しかし、これらはおそらく、リラクゼーションの補助としてのみ有効でしょう。私の経験上、ヒプノセラピー(催眠療法)はベンゾジアゼピン長期服用者には有効ではありませんでした。リラクゼーション法については第Ⅲ章で紹介しています。

高額なセラピストよりも(あるいはそれに加えて)、あなたには、頻繁に、しかも定期的に、離脱中も離脱して数ヶ月後にも長期間に亘ってあなたをサポートできる信頼のおける人が必要です。ボランティアの精神安定剤依存症支援グループ(自助グループ)が非常に有効なものになるでしょう。それらを運営しているのは、通常、離脱を経験した人たちなので、彼らは離脱には時間と辛抱が必要なことを理解し、また、ベンゾジアゼピンについて情報提供が出来ます。あなたが一人ではなく、あなたと同じような問題を抱えた人が沢山いることを知ると励みにもなります。しかしながら、他の人が言う症状全てを経験すると誤解して怖がらないで下さい。状況は皆それぞれ異なり、中には正しいスケジュールと正しいサポートを得ると、厄介な症状を全く経験しない人もいるのです。事実、多くの人が外部の助けを全く受けずに、自力で何とか離脱をしてきたのです。


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(3) しっかりとした心構えを持つ

  • 自信を持つこと あなたは出来ます。もし疑うのでしたら、試しに数日間、ほんの少しだけ減薬してみて下さい(例えば、あなたの一日の用量のうち、10分の1あるいは8分の1程度減量してみて下さい。これは、あなたの錠剤のひとつを半分あるいは4分の1にすると出来るでしょう)。おそらく何の変化も感じないことに気付くでしょう。それでもなお疑いがあるなら、最初は完全な離脱よりも減量(減薬)を目標にすることです。一旦スタートしたら、おそらくあなたは継続することを希望するでしょう。
  • 忍耐強くなること 離脱を急ぐ必要はありません。あなたの身体(と脳)は数年間のベンゾジアゼピン服用後に再調整する時間が必要かもしれません。多くの人が離脱を完了するのに1年あるいはそれ以上を必要としてきました。だから急いではいけません。そして何よりも、突然止めようとしないで下さい。
  • 自分自身の方法を選択すること“手っ取り早い解決”を期待しないで下さい。病院や“解毒”専門の治療施設に入院することも可能かもしれませんが、そのような場所では、通常かなり急速な離脱をさせられることになります。医療的には“安全”であり、心理的サポートも得られる可能性もあります。難しい精神的問題を持った少数の患者には、こういった治療施設が適している場合もあるでしょう。しかしながら、そこでは往々にして患者に離脱の管理をさせず、退院後、逆戻りすることがよくあります。その理由は主に、そこでは代わりの生活スキルを構築する時間がないからです。あなた自身の環境でゆっくりと離脱することにより、身体的、心理的調整をするための時間が与えられ、あなたは通常の生活を続けることもでき、あなた自身のライフスタイルに合わせて離脱を調整することが可能となり、そして、ベンゾジアゼピンなしで生きていく別の方法を築き上げていくことができるのです。

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離 脱

(1) 用量の漸減

ベンゾジアゼピン長期服用から離脱する場合、誰でも用量をゆっくりと減らさなければいけないことに、疑いの余地は全くありません。突然の断薬や速過ぎる離脱は、特に高用量からの場合、重篤な症状(痙攣発作、精神病性反応、急性不安状態)を引き起こすことがあり、また遷延性の離脱症状のリスクを増大させます(第Ⅲ章参照)。緩徐な離脱とは、徐々に用量を漸減していくことであり、通常、数ヶ月の期間をかけて行ないます。その目的は、ベンゾジアゼピンの血中濃度、組織内濃度を安定させてスムーズにゆっくりと低下させることにあり、そうすることによって、脳内の機能が本来の正常な状態を取り戻すことが可能となるのです。第Ⅰ章で説明したように、ベンゾジアゼピンの長期服用は、神経伝達物質GABAが媒介する生体本来の鎮静機能の多くを支配します。結果として脳内GABA受容体は数を減らし、GABA機能は低下します。ベンゾジアゼピンから突然離脱すると、脳はGABA活動性低下状態のままであり、その結果、神経系統の過興奮が引き起こされます。この過興奮が次章で論じる離脱症状のほとんどの根本原因となっています。しかしながら、身体が十分にゆっくりとスムーズにベンゾジアゼピンから離脱することにより、ベンゾジアゼピンの介在によって抑え込まれていた機能をコントロールする力を、本来のシステムが取り戻します。脳機能が元に回復するまで長期間を要することは科学的に立証されています。ベンゾジアゼピン長期服用後の脳の回復は、大きな外科的手術からの回復とよく似ています。体や心の回復はゆっくりとしたプロセスなのです。

最適の離脱(減薬)速度とは個人によって異なり、多くのファクターに左右されます。それらは、使用されたベンゾジアゼピンの用量および種類、服用期間、パーソナリティ、ライフスタイル、過去の経験、特異的な脆弱性、あなた自身の回復システムの速度(これは、おそらく遺伝的に決まっている)などです。通常、最適な判断が出来るのは、あなた自身です。あなた自身が離脱を管理し、あなたに無理のないペースで進めていかなければいけません。あなたは、急速な離脱をさせようとする他者(クリニックや医師)からの説得に抵抗する必要があるかもしれません。多くのクリニックや医師達がこれまで標準として採用してきた6週間という離脱(減薬)期間は、多くの長期服用者にとってかなり急速過ぎます。実際は、十分にゆっくりとしたものである限り、離脱速度(漸減期間)は決定的に重要なことではありません。もしあなたが、およそ数年間ベンゾジアゼピンを服用しているなら、漸減に6ヶ月かかろうが、12ヶ月あるいは18ヶ月かかろうが、そういう期間の違いはほとんど意味のないことです。

時に、ベンゾジアゼピンからの離脱に非常にゆっくりと時間をかけるのは、“単に苦痛を長引かせる”だけで可能な限り早く終わらせた方が良い、という主張があります。しかしながら、ほとんどの患者の経験によると、ゆっくりとした離脱が非常に好ましいのです。特に患者側が離脱(減薬)速度を決める場合、彼らはそう言います。そうすることで実際に、多くの患者が、ほとんどあるいは全く“苦痛”を伴わなかったことに気付くのです。それでもやはり、魔法のような離脱速度がある訳ではなく、患者自身がそれぞれの最適なペースを見出さなければいけません。低用量のベンゾジアゼピンを比較的短期間(1年以下)服用していた人は、通常かなり早く離脱することが可能です。アルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)やクロナゼパム(リボトリール、ランドセン)など高力価のベンゾジアゼピンを高用量服用していた人はより多くの時間が必要となるでしょう。

緩徐な離脱スケジュールの例をこの章の最後に示しています。非常に大まかなガイドになりますが、ジアゼパム一日40 mg(あるいはその等価量)を摂取していた人は一日20 mgの用量に到達するまで、1~2週間毎に2 mgずつ一日の用量を減らしていくことが可能でしょう。これに10~20週を要することになります。ジアゼパム一日20 mgからは、毎週あるいは2週毎に一日の用量を1 mgずつ減らしていくのが良いでしょう。これで更に20~40週を要します。よって、漸減期間は合計で30~60週かかるということです。しかし、もっと速い減薬を好む人もいますし、更にもっと時間がかかる人もいます。(詳細は次項を参照

しかしながら、離脱の際には、常に前へ進むことが大切です。困難な局面が来たら、必要ならばそこで数週間減薬をストップしても構いません。しかし、後戻りして用量を再度増やすことは避けるべきです。中には、特に辛い状況の時、“エスケープピル”の使用を勧める医師もいます。おそらくこれは賢明な考えではありません。というのも、ベンゾジアゼピンの血中濃度のスムーズな低下を阻害し、また、離脱に順応するために必須である、薬なしで対処する学習プロセスを中断させるからです。もし十分にゆっくりと漸減しているのなら、“エスケープピル”を必要とすべきではありません。

〔*訳註:「エスケープピル」とは、緊急避難的な意味での追加的な服薬のこと〕


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(2) 長時間作用型ベンゾジアゼピンへの切り替え

アルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)やロラゼパム(ワイパックス)のように相対的に短時間作用型のベンゾジアゼピン(第Ⅰ章、表1)では、血中濃度、組織内濃度をスムーズに低下させることは困難です。これらの薬剤はかなり速く排出されるため、結果として各服薬時間の間に血中濃度のピークや谷を生じて、濃度の変動が激しくなります。そうすると、一日に数回服薬する必要があり、多くの人が各服薬間に“ミニ離脱症状”を経験し、時には薬を渇望する状況が起こります。

これら高力価、短時間作用型の薬剤から離脱する場合、ジアゼパムのようなゆっくりと代謝される長時間作用型のベンゾジアゼピンへの置換が得策です。ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)はベンゾジアゼピンの中で最もゆっくりと排出されるタイプです。血中濃度半減期は200時間にもなります。これは、各服薬の血中濃度が半分だけ低下するのに8.3日要することを意味します。他の似たような半減期を持つベンゾジアゼピンは、クロルジアゼポキシド(コントール、バランス)、フルニトラゼパム(ロヒプノール、サイレース)、フルラゼパム(ダルメート、ベノジール)だけで、これら全ては体内でジアゼパム代謝物に変化します。ゆっくりとしたジアゼパムの排出は、血中濃度のスムーズで緩やかな低下をもたらし、身体がベンゾジアゼピンの血中濃度の低下にゆっくりと適応することが出来るのです。置換のプロセスは徐々に行なう必要があります。通常、段階的方法をとり、置換を行うのは一度に一回分の服薬だけに止めます。ここで考慮すべきファクター(要素)がいくつかあります。ひとつは、様々なベンゾジアゼピンの力価の違いです。医師がこのファクターを適切に考慮していないために、多くの人が、より低い力価の異なる薬剤に不十分な用量で突然置換されて苦しんでいます。ベンゾジアゼピンの等価換算表が表1(第Ⅰ章)に示されています。しかしこれらは概算に過ぎず、個人間で異なります。

留意しなければいけない2つ目のファクターは、多種あるベンゾジアゼピンは大まかには似ていますが、作用特性がそれぞれ若干異なるということです。例えば、ロラゼパム(ワイパックス)は、ジアゼパムよりも睡眠作用が低いようです(おそらく作用時間が短いためでしょう)。従って、もしワイパックス2 mgを一日3回服薬している人が、そのままジアゼパム60 mg(不安に対する等価用量)に置き換えたら、その人は非常に眠くなる傾向があります。しかし、その人が、ずっと低用量のジアゼパムに突然置換されたなら、おそらく離脱症状を呈することになるでしょう。切換えを一度に一回分(あるいは一回服薬分量のさらに一部)に止めることで、この問題を回避することが出来ます。また、その人に合った等価用量を見出すことにも役立ちます。最初の置換を夜の服薬時に行なうことも有効です。また、置換は常に完全である必要はありません。例えばもし、夜の用量がワイパックス2 mgの場合、これをワイパックス1 mg+ジアゼパム8 mgの併用で置換することが可能なケースがあります。正確に完全な置換をするとなると、減量したワイパックス1 mgはジアゼパム10 mgに相当します。しかしながら、患者は実際にこの組み合わせでよく眠られることがあります。またこうすることで、すでに減量も達成していることにもなります。これが離脱における第一段階です。(段階的な置換方法は、この章の最後にあるスケジュールの中で示されています。)

3つ目の重要な実践上のファクターは、多種あるベンゾジアゼピンのうち、入手できる用量形態(剤形)に関する条件です。離脱の際には、かなり少しずつ減量することが可能な長時間作用型薬剤が必要になります。ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)のみが、この目的に理想的な唯一のベンゾジアゼピンです。なぜなら、2 mgの錠剤が販売されており、その中央に切り込みがあり簡単に半分の1 mgに割ることが出来るからです。これとは対照的に、ロラゼパム(ワイパックス)の場合は、入手可能な最小用量剤形は0.5 mg(ジアゼパム5 mgと等価[英国では、入手できるロラゼパム最小用量剤形は1 mg])で、また、アルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)の最小用量剤形は0.25 mg(ジアゼパム5 mgと等価)です。たとえこれらの錠剤を半分に割ったとしても、簡単に作れる最小減薬量はジアゼパム2.5 mgと等価になります。(患者の中には、錠剤を削って細かくすることがとても上手になる人がいます。)錠剤の用量形態が限定されているため、たとえ比較的低力価でかなり長時間作用型のベンゾジアゼピン(例:フルラゼパム[ダルメート、ベンジール])であっても、ジアゼパムに置換することが必要になるかもしれません。いくつかのベンゾジアゼピンは液体製剤で入手できます。必要ならば、目盛のついた注射器を使って各服薬量を減量することで、これらの薬剤から緩徐に漸減することが可能です。

米国の医師の中には、クロナゼパム(リボトリール)に置換する医師もいます。これはよりゆっくりと排出されるため、例えばアルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)やロラゼパム(ワイパックス)よりも離脱しやすいだろうと考えるからです。しかしながら、クロナゼパム(リボトリール)はこのような用途には全く望ましくありません。クロナゼパムは力価のかなり高い薬剤で、ジアゼパムよりずっと速く排出されます(第Ⅰ章、表1参照)。また、米国で入手可能な最小用量の剤形は0.5 mg(ジアゼパム10 mgと等価)で、カナダでは0.25 mg(ジアゼパム5 mgと等価)です。この薬剤でスムーズに血中濃度を低下させるのは困難であり、また、クロナゼパム(リボトリール)等の高力価のベンゾジアゼピンからの離脱は特に困難というエビデンスもあります。しかしながら、クロナゼパムからジアゼパムに置き換えるのに非常に苦労する人たちが中にはいるようです。そういうケースでは、極少量が入った特別なカプセルを製剤化して用いることも可能です。例えば、1ミリグラムの8分の1や16分の1、あるいはそれ以下の用量です。そのようなカプセルを使うことで、クロナゼパム(リボトリール)から直接、徐々に減量していくことが可能です。こういうカプセルを用いるには医師の処方箋が必要で、英国の場合は病院薬剤師および一部の薬剤師が、そして北米の場合は調剤薬剤師(compounding pharmacist)が調剤することが可能です。他のベンゾジアゼピンを服用中でジアゼパムに置換しにくい場合にも、同様のテクニックを適用することが出来ます。米国とカナダの調剤薬剤師を探すなら、このウェブサイト www.iacprx.org が役に立つでしょう。注意しなければいけないことは、調剤薬剤師が同じ調剤法を保証できることを処方更新毎に確認することです。しかしながら、ベンゾジアゼピン離脱にこの手法を使うことは問題を引き起こすこともあり、一般的に推奨されないので注意して下さい。

〔訳註:日本での剤形や調剤事情は欧米とは異なります。必要に応じて、主治医や薬剤師に確認してください。〕


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(3) 離脱スケジュールの計画と実践

離脱スケジュールを数例、後のページで示します。それらほとんどは、離脱に成功した実在の人に適用されうまくいった実際のスケジュールです。しかし、どのスケジュールも、個人の必要性に応じて調整されなければいけません。つまり、必ずしも同じである必要はないのです。以下に、あなた自身のスケジュールを作成する際に考慮しなければいけない点をまとめました。

  1. あなた自身の症状に合わせてスケジュールを立てて下さい。例えばもし、不眠が主な問題なら、服薬量のほとんどを就寝時に摂取して下さい。もし朝に外出するのが困難でしたら、服薬分の一部を朝一番に摂取して下さい。(ただし、眠くなったり、車の運転が出来なくなったりしない用量で!)
  1. ジアゼパムに置き換える際、置換は、一度に一回分の服薬量に止めて下さい。通常は夕方または夜の服薬時に置換を開始し、それから他の服薬時についても順次、数日あるいは1週間の間隔を空けながら置換を進めていきます。もし、あなたが非常に高用量から漸減をスタートしていないのであれば、この段階で減量を目指す必要はありません。単に、大まかな等価用量を見出すことを目指して下さい。これが終了してから、ゆっくりとジアゼパムの減量を開始すればいいのです。しかしながら、もし、あなたがアルプラゾラム6 mg(ジアゼパムに換算すると120 mgと等価)といった高用量を服薬している場合、置換時に多少の減量に取りかかる必要があるかもしれません。そして場合によっては、一度の置換を、一回服用量のうちのさらに一部だけに止める必要もあるかもしれません(スケジュール1参照)。この際の目的は、主として離脱症状を予防し、かつ、眠くなるほどの過量にならないようなジアゼパム用量を見出すことなのです。
  1. ジアゼパムは非常にゆっくりと排出されるので、一日最大2回のみの使用で、安定した血中濃度を保つことが出来ます。もし、あなたがベンゾジアゼピンを一日3回あるいは4回服用している場合、一旦ジアゼパムに置換したら、服薬を一日2回にして間隔を空けることが賢明です。一日の服薬回数が減れば、薬に振り回されるストレスも軽減するでしょう。
  1. 始めの服薬量が多ければ多いほど、各減薬量も大きくなることがあります。各減薬時に現在用量の10分の1までを上限目標として減量することも良いでしょう。例えば今、ジアゼパム40 mg等価量を摂取しているなら、1週あるいは2週間毎に、最初は2~4 mgずつ減量していきます。20 mgまで減量できたら、減薬量は1週あるいは2週間毎に1~2 mgずつにします。10 mgまで減薬できたら、減薬量はおそらく1 mgずつが良いでしょう。ジアゼパム5 mgからは、1週あるいは2週間毎に0.5 mgずつの減量を好む患者も中にはいます。
  1. 離脱スケジュールは最後まで完全に作成する必要はありません。通常は、最初の数週間の計画を立て、実践してから再評価し、必要なら進み具合によってスケジュールを修正することが賢明です。主治医には、いつでもあなたの状況に合わせて漸減ペースを遅らせたり(あるいは速めたり)して、柔軟に対応するように伝えておいて下さい。
  1. 可能な限り、逆戻りしないで下さい。環境が変化した場合は(例えば家庭内で緊急事態が起きた時など)、あなたはスケジュール中の何処かの段階で、それ以上の減量を行わずに立ち止まって数週間休んでも構いません。しかし、常に用量を再増量することは避けるよう努めて下さい。あなたもすでにやり遂げた所まで逆戻りはしたくないはずです。
  1. ストレスが強い時に、追加的に服薬することは避けて下さい。症状をコントロールする力を習得するよう努めて下さい。こうすることで、ベンゾジアゼピンなしで対処する新たな自信が身に付くことでしょう。(第Ⅲ章の離脱症状を参照して下さい)。
  1. アルコールや大麻、非処方薬の摂取を増やして、ベンゾジアゼピンの埋め合わせをしないで下さい。場合によって、あなたの主治医は、特定の症状に対して他の薬剤を提案することがあるかもしれません(第Ⅲ章)。しかし、ゾルピデム(マイスリー)、ゾピクロン(アモバン)、ザレプロン(Sonata 本邦未承認)などの睡眠薬を服薬してはいけません。何故なら、これらはベンゾジアゼピンと同じ作用を持っているからです。
  1. 最後の服薬中止: しばしば、最後の僅かな用量を断薬することが、特に難しいと思われています。これは主に、全く薬のない生き方に対する恐怖からくるものです。実は、最後の断薬は驚くほど簡単です。皆大抵は、新たな自由な感覚を得たように喜びます。いかなる場合でも、スケジュールの最終段階で服用している一日ジアゼパム1 mgや0.5 mgとは、依存を維持させているだけで、他にほとんど影響を及ぼしていません。最終段階にきて、離脱速度をむやみに遅くして、離脱を長引かせようとしないで下さい(例えば、0.25 mgの減量を1か月毎など)。一日0.5 mgまでに到達したら、思い切って下さい。完全な回復とは、完全に断薬して初めてスタートするのです。離脱完了後も“万が一”に備えて、念のため錠剤を少し携帯したがる人もいますが、使うことはまずないことに気付きます。
  1. 離脱スケジュールのことばかりにとらわれないで下さい。これから先の数ヶ月間を、普通に過ごせばいいのです。大丈夫。あなたは沢山の人がしてきたように、ベンゾジアゼピンから離脱しようとしているのです。深刻になる必要はありません。
  1. もし、あなたが何らかの理由で、ベンゾジアゼピンからの離脱を一度試みて成功しない(しなかった)なら、いつでもやり直しが出来ます。ほとんどの喫煙者は、完全に禁煙するまで7、8回試みるそうです。嬉しいことに、ほとんどのベンゾジアゼピン長期服用者は、最初の試みで成功しています。二度目のチャレンジが必要な人は、大抵は一度目に早く離脱しすぎた人たちです。ベンゾジアゼピンからの離脱は、あなた自身が管理してゆっくりと安定させれば、ほとんど常に成功するのです。

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(4) 高齢者における離脱

ベンゾジアゼピンからの離脱は、高齢者においても、若者と同じように成功させることが可能です(たとえ何年も飲み続けていたとしても)。最近行なわれた、開業医(一般医)に通院する273人のベンゾジアゼピン長期服用(平均15年)高齢者を対象とした臨床試験によると、自発的なベンゾジアゼピンの減薬と完全離脱によって、睡眠の改善、精神的・身体的健康状態の改善、通院機会の減少などがもたらされました。ベンゾジアゼピン長期服用高齢者に対する他の複数の研究においても、同様の研究結果が繰り返し示されました。

高齢者がベンゾジアゼピンから離脱すべき理由としては、特に切実な問題があります。それは年をとるにつれ転倒や骨折をしやすくなり、また、意識障害、記憶障害、精神科的な問題なども起こしやすくなるからです。(第Ⅰ章参照)

高齢者のベンゾジアゼピン離脱方法は、これまで普通の成人向けに推奨したものと同じです。私の経験では、ゆっくりとした漸減療法なら、たとえベンゾジアゼピンを20年以上服薬している80代の高齢者であっても十分耐えられます。スケジュール中、可能ならば液体製剤を使用することもあるかもしれませんし、必要ならばジアゼパム(セルシン、ホリゾン)への置換を慎重に段階的に行なうと良い場合もあります。もちろん、“高齢者”の定義には大きく幅がありますが、おそらく大抵の場合、65~70歳以上を意味するでしょう。


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(5) 抗うつ薬

ベンゾジアゼピン長期服用者には、慢性使用中にも離脱中にも抑うつ症状を発症するため、抗うつ薬も処方されているケースが多くあります。抗うつ薬もまた、離脱反応(精神科医は婉曲的に“抗うつ薬退薬反応”と名付けています)を引き起こすため、ゆっくりと漸減しなければいけません。もしあなたがベンゾジアゼピンと抗うつ薬を併用しているなら、抗うつ薬の漸減を始める前に、ベンゾジアゼピンの離脱を完了させることが最も望ましいと言えます。抗うつ薬のリストと簡単な漸減アドバイスをこの章のスケジュール13に示してあります。また、第Ⅲ章(表2)で、抗うつ薬の離脱(“退薬”)症状をいくつか紹介しています。

これまで概説したことは、自分自身の離脱を管理しようとしている人(おそらく読者の大部分)に適用できるものです。知識や理解のある医師やカウンセラーの助けがある人は、負担をいくらか共有してもらうことを望むかもしれません。私の離脱専門クリニックでは、通常、各患者と話し合いスケジュール案を作成していました。ほとんどの患者はスケジュールに強く関心を持ち、時々修正を提案してきました。しかしながら、細かなことを考えすぎず、ただ最後まできっちりとスケジュールに従うことを好む人も中にはいました。このグループも同じように離脱に成功しています。ごく少数の患者(おそらく患者300人のうち約20人程度)は、スケジュールについて何も知りたがらず、ただ指示に従うことを希望しました。また、彼らのうちの何人かは離脱の臨床試験に参加しました。このグループ(同意のもと、あるいは彼ら自身の求めによる参加)には、ベンゾジアゼピンを徐々に偽薬(プラセボ)に置き換えていきました。この方法もまたうまくいきました。患者達はベンゾジアゼピンからすでに離脱していて、最後の4週間は偽薬だけを摂取していたことを試験の最後で知り、彼らは驚き喜んだのでした。よく言うように、方法は色々あるのです!


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参考文献

  • Trickett, S. (1998) Coming off Tranquillisers, Sleeping Pills and Antidepressants. Thorsons, London.

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