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神経内科 報告書

 

ハッチンソン医師

(翻訳文)

オークランド

地区保健局

オークランド市立病院
パークロード
私書箱:92-024
オークランド市1丁目
ニュージーランド
TEL:0-9-379-7440

担当科:神経内科
TEL:09-307-4949
内線:x 25823
FAX:09-375-4309 / 5209(内)

2008年2月11日

 

関係各位

件名:ウェイン・ダグラス氏について
(生年月日:1966年9月9日 国民医療番号:PJU6268)

 

私は15年間、顧問神経内科医(Consultant Neurologist)を務めています。ニュージーランドのオークランドで神経内科医としての訓練を受けました。また、米国ミネソタ州のロチェスターにあるメイヨー・クリニックでも訓練を受けています。1995年以来、オークランド市立病院で顧問神経内科医としてフルタイムで勤務しております。

さて、ウェイン・ダグラス氏については、オークランド市立病院で二度診察しています。一度目は2001年12月12日、二度目は2003年10月1日です。

ダグラス氏からは、2000年5月のある日、夜中に激しい回転性目眩発作を起こして目を覚まし、歩行不安定になったとの報告を受けています。この回転性の目眩は8時間後にある程度回復したものの、1週間は支えなしに歩くことが出来ないままであったのことです。彼は至急、STRC病院で診察を受け、脳のMRI検査を受けたが異常は見つかりませんでした。彼はそこで前庭神経炎の疑いありと診断を受け、数種の薬が処方され、それらを1か月間服用しています。この後約2年半、彼は、変動性の軽度な平衡失調感覚を呈しています。

2000年の6月、ダグラス氏はX医師の診察を受けました。そこでX医師は、ダグラス氏に中脳水道症候群であることを伝えているようです。そしてダグラス氏はX医師から5種類の薬が併用処方されていました。その後、ダグラス氏には様々な新たな症状が出現しましたが、そのうちのほとんど、もしくは全てが、ベンゾジアゼピン系薬物への曝露に起因する症状に一致します。

2001年および2003年に、私は彼に神経学的検査を実施しましたが異常はみられませんでした。

当職はSTRC病院の医師たちの見解(診断)に同意しており、2000年5月にダグラス氏は、Acute Vestibulopathy(急性前庭障害)を呈していた蓋然性が極めて高いと考えます。この疾患は、Vestibular Neuronitis(前庭神経炎)、Acute Vestibular Neuritis(急性前庭神経症)、Acute Labyrinthitis(急性内耳炎)、Neurolabyrinthitis(神経迷路炎)など、呼び方がいくつかあります。通常、“Acute Unilateral Peripheral Vestibulopathy(急性片側性末梢前庭神経炎)” と呼ばれます(1)。これは、前庭器(三半規管および関連組織)、または、片側あるいは両側の前庭神経に生じる急性障害のことを指します。急性症状が治まった後に初めて受診する患者も時にいるものの、殆どの神経内科臨床医は、毎年一例以上はこの症例に遭遇することがあるでしょう。臨床兆候としては、激しい目眩、嘔吐、歩行不安定などがあります。急性期の神経学的検査においては、共同眼振を呈し、急速相は耳の損傷側の反対方向になります(2)。Acute Unilateral Peripheral Vestibulopathy(急性片側性末梢前庭神経炎)は単純ヘルペスウィルス感染の再活性化に起因すると考える専門家もいます(3)。症状は通常、数日から数週間で徐々に軽減していきます。

様々な神経学的疾患(例えば、小脳梗塞や多発性硬化症)において、Acute Unilateral Peripheral Vestibulopathy(急性片側性末梢前庭神経炎)と似た症状を呈することがありますが、脳MRI検査で陰性であればそれらは除外されるか、またはその可能性は極めて低くなります。メチルプレドニゾロン投与で、Acute Unilateral Peripheral Vestibulopathy(急性片側性末梢前庭神経炎)を呈する患者の末梢前庭機能の回復が、顕著に促進されます(3)。また、点滴剤や制吐薬を投与することもあります。

中脳水道症候群はまれであり、現代の神経内科で遭遇することはほとんどありません。2008年2月、Pubmed(学術文献検索サービス)において、“中脳水道症候群”という検索ワードで文献検索を試みましたが、1966年以降では23文献しか出てこず、過去20年に限っては、たった3文献のみでありました。中脳水道症候群とは、垂直視麻痺、瞳孔反応の異常、上眼瞼後退、輻輳後退眼振等の特徴を示す症候群のことです。輻輳麻痺及び斜方偏位も起こり得ます。中脳水道症候群は、通常、シャント(バイパス)手術を受けている水頭症患者において、シャントが閉塞された場合に起こります(4)。また、個別症例報告では、中脳梗塞(5)、多発性硬化症(6)、視床出血(7)、松果体部の腫瘍(8)、片側性中脳病変(9)を患う患者においても、この症候群が報告されています。ダグラス氏がこれらの神経学的兆候を示していなかったことは明らかです。それよりも重要なことは、脳MRI検査で、彼には中脳水道症候群を生じうる、水頭症あるいはその他のいかなる疾患も示されなかったことです。

当職は、2000年のダグラス氏の治療において、ベンゾジアゼピン系薬剤が有効であろうと考えられた理由を、理論的にも、その他の根拠においても見出せません。ベンゾジアゼピン系薬剤は、直接的に有効な制吐作用あるいは抗目眩作用を有しておらず、Acute Unilateral Peripheral Vestibulopathy(急性片側性末梢前庭神経炎)の治療に明確な有効性はありません。更に、ベンゾジアゼピン系薬剤は、中脳水道症候群を生じうる、水頭症あるいはその他のいかなる疾患の治療にも効果はないと考えられます。

 

引用文献

 

1.  In: Baloh RW, Halmagyi GM, eds. Disorders of the vestibular system. New York: Oxford University Press, 1996:318–27.]

2.  Halmagyi GM, Cremer PD. Assessment and treatment of dizziness. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2000 Nov;69(5):706.

3.  M Strupp, V Zingler, V Arbusow, et al.  Methylprednisolone, Valacyclovir, or the Combination for Vestibular Neuritis. N Engl J Med 2004;351:354-61

4.  J Neurosurg. 1999 Jul;91(1):169-70.

5.  Hommel M, Besson G. Midbrain infarcts. In: Bogousslavsky J, Caplan LR, editors. Stroke syndromes. New York: Cambridge University Press, 1995:336-43

6. Koshimura I, Nishi K, Komiya T, Mizuno Y. Pretectal syndrome caused by a plaque of multiple sclerosis. Rinsho Shinkeigaku. 1994 Mar;34(3):236-40.

7. Shigemori M, Shirahama M, Hara K, Tokutomi T, Kojima Y. A case of sylvian aqueduct syndrome secondary to thalamic hemorrhage. Rinsho Shinkeigaku. 1981 Aug;21(8):721-7.

8. Sakata E, Nakaigawa K, Itoh Y, Takahashi K. Sylvian aqueduct syndrome. Chronology of tumors in the pineal region in view of ocular movement. Auris Nasus Larynx. 1984;11(2):101-8.

9.  Auerbach SH, De Piero TJ, Romanul F. Sylvian aqueduct syndrome caused by unilateral midbrain lesion. Ann Neurol. 1982 Jan;11(1):91-4

 


神経内科医
ダビッド・ハッチンソン
MB ChB FRACP


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ハッチンソン医師


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ジョン・マースデン

「もし何かの薬を飲み続け、それが長い長い災難をもたらし、あなたからアイデンティティをまさに奪い去ろうとしているのなら、その薬はベンゾジアゼピンに違いない。」

ジョン・マースデン医師
ロンドン大学精神医学研究所
2007年11月1日

フィリップ・ウーラス

「我々の社会において、ベンゾは他の何よりも、苦痛を増し、より不幸にし、より多くの損害をもたらす。」

フィリップ・ウーラス下院議員
英国下院副議長
オールダムクロニクルOldham Chronicle (2004年2月12日)

マルコム・レイダー

「ベンゾジアゼピンから離脱させることは、ヘロインから離脱させるよりも困難である。」

マルコム・レイダー教授
ロンドン大学精神医学研究所
BBC Radio 4, Face The Facts
1999年3月16日

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