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アシュトンマニュアル追補 2011

「ベンゾジアゼピン ― それはどのように作用し、
離脱するにはどうすればよいか(2002年版)」に対する追補

ヘザー・アシュトン教授(DM, FRCP)

2011年4月7日

 

概 要

通称アシュトンマニュアルと呼ばれる"Benzodiazepines: How they work and how to withdraw"(「ベンゾジアゼピン —— それはどのように作用し、離脱するにはどうすればよいか」)の最終版が、インターネット上(www.benzo.org.uk.)に掲載されたのは2002年のことですが、それ以降、この薬を取り巻く環境には、臨床的にほとんど進歩はありませんでした。ベンゾジアゼピンは、世界的に依然として限度を超えて処方されており、過量処方や、行き過ぎた長期処方がしばしば行われています。実際に、多くの国において、ベンゾジアゼピンやそれに類した‘Zドラッグ(新規薬)’の処方は増加しています。クロナゼパム(リボトリール、ランドセン)や、特に米国においてはアルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)やゾルピデム(マイスリー)のような、より高力価の薬剤が処方される傾向があり、またロラゼパム(ワイパックス)が不安に対して依然として最も一般的に処方される薬剤でもあります。インターネット上で入手できるようになったことで、一般の人々が‘セルフ・メディケーション(自己投薬)’と称して、ベンゾジアゼピンを使用する機会も増えましたが、彼らはその有害作用や依存の可能性について気づいていないことが多いのです。また、入手が容易になったことで、多剤乱用者においてもベンゾジアゼピン使用が増えてきました。

〔*訳註:「Zドラッグ」とは、ゾルピデム(マイスリー)、ゾピクロン(アモバン)など、英語表記した場合に頭文字がZで始まるものが多い非ベンゾジアゼピン系薬剤の通称。新規薬。化学的にはベンゾジアゼピンとは異なるが、作用機序と及ぼす影響はベンゾジアゼピンと同じ。第Ⅰ章の表1参照〕

多くの医師は、ベンゾジアゼピン長期服用者に対して離脱を指導する知識や専門技術をほとんど持ち合わせていません。また、臨床心理士が少ないために、熟練した心理的支援を得ることも困難です。英国においては、医師は、離脱に関する良質なアドバイスを入手できます。例えば、Clinical Knowledge Summaries (臨床知見概要)やBritish National Formulary (英国医学会・薬学会共同編集処方集) などからです。米国の場合は、Maine Benzodiazepine Study Group (MBSG:メイン・ベンゾジアゼピン研究グループ)から入手可能です。しかし、このような情報を活用する医師はほとんどいません。アルコールや違法ドラッグを扱う依存治療施設は、ベンゾジアゼピン服用者には適していません。そういった医療機関は患者を急速に離脱させ、融通の効かないルールや‘契約(contract)’に基づいた方法を用いるだけで、十分な支援や経過観察を行わない傾向があります。英国においては、NHS(National Health Service:国民医療保健サービス)の支援による慈善事業や、ベンゾジアゼピン問題に尽力している支援団体などがいくつかはあるものの(下の連絡先リスト参照)、もはや、いかなる離脱専門の医療機関も存在しません。

最適なベンゾジアゼピン離脱方法についての臨床研究は限られています。臨床試験のメタ分析から得る結果は解釈が困難です。何故なら、離脱速度や心理的支援の方法がそれぞれの試験で異なる上に、異なる補助薬を使用している場合もしばしばあり、その多くは比較対照試験が行われておらず、短期間の追跡しかなされていないからです。遷延性症状や永続的影響の可能性について、ベンゾジアゼピン服用による長期的影響を調査する研究は行われていません。ベンゾジアゼピンは脳や他の機能に永続的損傷をもたらすことがあると、多くの服用経験者が主張しますが、それが事実かどうかという疑問について、科学的な回答は未だ得られていません。耐性や離脱症状、あるいは不安の根底にある分子メカニズムについて、また、ベンゾジアゼピンと様々な神経伝達物質系との相互作用についての基礎研究が興味深い結果をいくつか示してきました。しかしこれらも、将来的に臨床上の進歩につながる可能性はあるものの、臨床診療に直ちに応用できるものではありません。

〔*訳註:メタ分析とは、過去に行われた複数の臨床試験結果を統合して、より信頼性の高い結果を求める手法〕

‘アシュトンマニュアル'に記した、ベンゾジアゼピン処方薬服用者(または処方医)に対するアドバイスは、今日も適切なものであり、更新の必要はほとんどありません。今回の追補では、離脱中および離脱後のベンゾジアゼピン服用者からよく聞かれる質問への回答として、更に情報を追加しました。このような質問に回答することは容易なことではありません。他の多くのベンゾジアゼピン問題と同様に、それらはさまざまな個人的要因に左右されるからです。たとえば、性格、遺伝的体質、ベンゾジアゼピンの処方理由、使用したベンゾジアゼピンの用量、種類、服薬期間、現在の症状、環境的ストレス、その他があります。この追補の中で提供されている一般情報から答えを求めようとする方は、どのファクター(要因)がご自身に当てはまるのかを見出す必要があります。

ベンゾジアゼピンについて、私が最もよく聞かれる質問は以下のものです。

  1. ベンゾジアゼピン長期服用は、脳に永続的損傷をもたらすか?
  2. 何故、離脱成功後(しばしば長期間経過して)、ベンゾジアゼピン離脱症状の明らかな再発が出現するのか?
  3. 断薬(離脱)後、離脱症状が持続する場合、ベンゾジアゼピン治療を再開すべきか?

今回のアシュトンマニュアルの追補では、これらの質問および、それに関連するいくつかの問題について解答してみました。


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永続的な脳の損傷は?

構造的損傷 断薬した多くのベンゾジアゼピン長期服用者が、多彩で、一見不可逆的にみえる精神症状、身体症状を訴え、それらが薬によってもたらされた永続的な脳の損傷に起因していると考えます。しかしながら、ベンゾジアゼピンが脳に損傷をもたらすか否かについては、未だ解決されていません。1982年に、マルコム・レイダー教授とその同僚達が、CT (コンピューター断層撮影)を用いて、ベンゾジアゼピン長期服用者14人における脳スキャンを対照被験者群と比較した、小規模な研究の結果を報告しました。ベンゾジアゼピン服用者のうち2人に、明らかな脳皮質の萎縮が見られ、他の5人では境界領域の異常が見られましたが、その他の人々は正常でした。1984年に、20人の患者を対象に行われたレイダー教授による別の研究でも、結果は再び示唆に富むものでしたが、CTスキャンの結果とベンゾジアゼピン服用期間との関連性は認められませんでした。この研究では、「研究結果の臨床的意義は不明確だ」と結論付けられました。その後の1987、1993、2000年に行われたCTスキャンを用いた研究においても、ベンゾジアゼピン長期服用者に一貫した異常を見出すことは出来ませんでした。そして、ベンゾジアゼピンは脳の構造的損傷(例えば、神経細胞の死亡、脳の縮小や萎縮など)を引き起こさないという結論を出しました。後に開発された、より精度の高い脳スキャンであるMRI(磁気共鳴画像診断)については、ベンゾジアゼピン服用者を対象にした、体系的な研究はなされていないようです。しかし、MRIもCT同様、構造的変化を示すだけのことで、こうした技術を用いても、その病態が解明されることはなさそうです。ベンゾジアゼピンの長期服用歴があり、まだ後遺症状が残っている多くの患者をみても、そのMRIは正常なものでした。

機能的損傷 ベンゾジアゼピンによってもたらされる長期的な脳の変化とは、“構造的”というよりも“機能的”なものである可能性が大きいようです。そのような変化を示すためには、ベンゾジアゼピン長期服用者の脳の“活動”異常を調査する必要があるでしょう。そのような研究技術は利用可能です。例えば、fMRI (機能MRI)は局所的な血流を計測します。また、PET(ポジトロン放射断層撮影法)およびSPECT(単一光子放射断層撮影法) は神経伝達物質や受容体の活動を計測します。また、QEEG(定量脳波検査法)およびMEG(脳磁気図検査法)は局所的な電気的活動を検査します。このような技術のどれも、ベンゾジアゼピン長期服用者の対照研究において活用されたことはありません。認知機能検査により、脳の特定領域の機能障害を示す可能性が考えられますが、6ヶ月以上に亘る研究はありません。最終的には、死後検査により脳内受容体の異常を示すことが可能かもしれませんし、動物実験を行えば、神経細胞(ニューロン)の遺伝子発現の変化を示すことが可能かもしれません。しかし、このような研究が行われたことはありません。また、ベンゾジアゼピン長期服用者における、他の組織あるいは器官の異常を調査する研究も行われていません。

脳機能の検査技術を用いたベンゾジアゼピン長期服用者の対照研究は、慎重に計画される必要があり、おそらく対照群、服用者群ともに、100人以上の年齢および性別を適合させた膨大な数の被験者が必要となるでしょう。ベンゾジアゼピン服用者群においては、用量、ベンゾジアゼピンの種類、服用期間、精神疾患歴、症状、アルコールおよび他の薬剤の使用、その他いくつかのファクターを考慮しなければいけないでしょう。このような研究には費用がかかりますし、資金調達が困難であることが予想されます。製薬企業も援助したがらないでしょうし、英国医学研究審議会(Medical Research Council)やウェルカム財団(The Wellcome Foundation)、または英国保健省(Department of Health)のような‘独立した’機関も、これまでほとんど興味を示していません。このように、ベンゾジアゼピンが脳あるいは他の器官に損傷を引き起こすかどうかという問いには答えがないままです。


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ベンゾジアゼピンの長期的影響

ベンゾジアゼピン服用による長期的(場合によると永続する)影響に関与している可能性のあるメカニズムのひとつは、脳内GABA神経細胞におけるベンゾジアゼピン受容体の活動変化です。ベンゾジアゼピンの慢性使用により、この受容体が下方制御を受け(減少し)、ベンゾジアゼピンに対する耐性が形成されます。この下方制御は、薬剤の継続的介在に対する、生体の恒常性維持(ホメオスタシス)反応なのです。ベンゾジアゼピン自体がGABA機能を賦活化させるため、余分なベンゾジアゼピン受容体が必要とされなくなり、多くの受容体が、事実上、廃棄されます。これらの下方制御された受容体は神経細胞に吸収され、やがて、受容体は遺伝子発現の変容など様々な変化を起こします。薬剤からの離脱後、これらの受容体がゆっくりと回復していく際、僅かに変化した形で戻ってくる可能性があります。GABAは本来‘鎮静系’の神経伝達物質ですが、変化した受容体は、変化する前に比べ、 GABAの作用を高める上であまり効果的でない可能性があります。その結果、脳のGABAへの感度が全般的に低下し、患者は中枢神経の興奮性が高まり、ストレスに対する感度が増大した状態におかれます。分子生物学者によると、遺伝子発現の変化からの回復は非常にゆっくりであり、場合によっては回復不可能でさえあると指摘されています。(GABA受容体におけるベンゾジアゼピンの作用については、マニュアル内でより詳細に解説してあります。

一部の人々は、他の人たちよりも、生まれつき不安を感じやすい傾向があるようです。全般性不安障害やパニック障害の患者、耳鳴りを呈する患者では、たとえベンゾジアゼピン治療を受けていなくても、脳内GABA/ベンゾジアゼピン受容体の密度が低く(数が少なく)、ベンゾジアゼピンに対する感受性が低いことが、脳の画像解析および薬理学的研究により示されてきました。おそらく、このような遺伝的にGABA/ベンゾジアゼピン受容体が少ない人は、ベンゾジアゼピンによる長期的影響、離脱後の遷延性症状、明らかな離脱症状の再発を、より経験しやすい人達なのでしょう。

断薬後も持続する慢性的な神経系の過亢進症状は、マニュアル第Ⅲ章の表3 に記載されています。


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ベンゾジアゼピン受容体: 天然のベンゾジアゼピンは存在するのか?

読者はおそらく次のように質問するかもしれません。「私達の脳の中には、どうしてベンゾジアゼピン受容体という特有なものがあるのでしょうか?それらは、ジアゼパムの登場をじっと待ち続けて、太古の昔からずっと進化もせずに存在し続けたはずはありません!」 脳に作用する薬のほとんどは、脳内に既に存在する受容体に作用します。これらの薬は全て、体内で合成された天然の物質の代替をすることが、後から発見されたものなのです。例えば、モルヒネ受容体は、内因性のエンドルフィンやエンケファリンという、生理的な鎮痛作用物質に反応します。また、大麻受容体(カンナビノイド受容体)は、通常、アナンダミド(“至福”を意味するサンスクリット語、anandaに因んで名付けられた)と呼ばれる天然物質によって刺激されます。また、タバコのニコチンは、天然の神経伝達物質であるアセチルコリンの受容体(ニコチン受容体)に反応します。更に抗うつ薬や抗精神病薬といった全ての向精神薬も、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの天然の神経伝達物質の受容体に作用します。これらの発見から得られる結論は、ジアゼパムのように、GABA/ベンゾジアゼピン受容体においてGABA機能を正常に調節し、鎮静、催眠、抗けいれん作用を本来的に具備する天然のベンゾジアゼピンが存在するに違いない、ということです。

とらえどころのない天然のベンゾジアゼピンを探す作業は、約20年間行われています。天然のベンゾジアゼピンは、ジャガイモ、小麦、トウモロコシ、米、カノコソウ(鹿子草)、ケシなどの植物内に発見されています。また、動物の組織内でも見つかっています。ジアゼパムおよびその活性代謝物ノルジアゼパムが、ヒトの血液中および脳内に発見されていますが、これらは食物由来のものであった可能性があります。しかしながら、化学的にはベンゾジアゼピンと関係ないにも拘わらず、GABA/ベンゾジアゼピン受容体に結合する物質がいくつか、ラット、牛、蛙、魚、ヒトなど様々な動物の脳および他の組織中に、また、分離されたラットの脳スライス内でも発見されています。このような作用物質は小さなポリペプチドであり、エンドゼピンと呼ばれ、体内にある天然のベンゾジアゼピンと考えられています。それらは多くの作用を有しています。例えば、脳内GABA-A受容体のベンゾジアゼピン結合部位に特定的に結合し、脳内GABA神経伝達物質を調整する作用があります。おそらくエンドゼピンは、全身に分布し多くの機能を有する他タイプのGABA受容体とも相互に作用するでしょう。

エンドゼピンには、まだなお調査すべき点が多くあります。(アシュトンマニュアル、第Ⅰ章で解説したように)ジアゼパムのように作用しGABA機能を賦活化させるものがある一方、ジアゼパムの結合を妨げるものも中にはあり、そのため、一部のエンドゼピンが不安を惹起させる可能性もあります。GABA-A受容体に作用する種々のエンドゼピンが、GABA-A受容体機能の‘微調整役’として作用し、それらのバランスが、個人における不安に対する感受性やベンゾジアゼピン系薬剤に対する反応を決定しているようにも思われます。

エンドゼピンの役割については、今なお議論の余地がありますが、私は天然のベンゾジアゼピンは確かに存在すると考えています。そして、それらはすでに存在を突き止められているのかもしれません。エンドゼピンの存在により、脳の複雑性および精巧性は更に増大します。我々は脳内で起きていることをほとんど何も知りません。このことが、個々のベンゾジアゼピン問題に対してアドバイスすることを困難にさせます。


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離脱成功後の症状の再発

離脱を成功させ通常の健康状態に戻った後、何年も経過して、明らかなベンゾジアゼピン離脱症状の再発を経験することは珍しい事ではありません。症状のパターンはそれぞれ、個人によって特有であり、身体的、精神的特性により左右され、そして疑いもなく、ベンゾジアゼピン受容体の先天的密度やエンドゼピンのバランスによっても異なってきます(前述参照)。ベンゾジアゼピン離脱の経験は、それを経験した人の心(脳)や記憶に深く刻まれ、そして、全ての記憶と同様に、シナプス(2つの神経の接合部)の強さや結合により、実際に物理的に顕在化します。このような症状の再発は、全てGABA活動性低下のサインであり、興奮性の神経伝達物質の出力増大を伴い、中枢神経の過興奮、過敏性をもたらします。再発のメカニズムはベンゾジアゼピン離脱症状のメカニズムと全く同じです。その理由は、症状が同じだからです。

詳しく調査してみると、明らかな再発のほとんど全てのケースにおいて、症状の再発の増悪原因が、環境ストレスの増大であることが分かります。認識されないこともある新たなストレスや心配事が引き金となりうるため、症状の再発は前触れもなく突然起こるようです。感染症、手術、歯の問題、仕事上の問題、疲労、死別、家庭内の問題、睡眠不足、薬の副作用、環境の変化などの、ほとんど全てのストレスが再発を引き起こす要因となり得ます。また、加齢や長期に亘る悩み事によって、脳のストレス対処能力が単に低下することも要因となるかもしれません。更には、無意識の中に埋もれていた過去の不快な心配事、思い、記憶が再度表面化し、今なお長引いている可能性もあります。何故なら、脳が過去にそれらに十分に対処出来ていなかったためです。トラウマティックなベンゾジアゼピン離脱を経験した人は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の要素が関係している可能性があります。この場合、過去のトラウマ(精神的外傷)を想起させる些細なことが引き金となり、再発が引き起こされる状態です。あたかも、何らかの新たなストレスが、その人のストレス対処能力の限界を超えてのしかかるかのようです。前述したように、ベンゾジアゼピン治療を長期間受けていた患者の中には、たとえ断薬後であってもストレス耐性が低下したままの人たちがいます。ですから、彼らは新たなストレスあるいは再発するストレスに対して、より脆弱になっているのです。

多くの人が、新しい薬や、ベンゾジアゼピン服用前には忍容性があった薬の使用で有害作用を経験したと報告していますが、その理由は明らかではありません。それらの薬剤には共通点がないため(例えば、肌用軟膏から、目薬、局所麻酔薬、抗うつ薬、ステロイドに至るまで多種の薬剤)、これら副作用の原因を、代謝反応、アレルギー反応、あるいは他の周知の反応に求めることは困難です。おそらく、神経システムの全般的な過敏性が、あらゆる異質の物質への反応を増大させるからでしょう。しかし、未だ明確な説明はなされていません。一つの例外は抗生物質のキノロン剤です。これは、ベンゾジアゼピンを受容体から外すので、ベンゾジアゼピン服用中の患者、または最近まで服用していた患者は摂取すべきではありません。


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再服薬、増量

ベンゾジアゼピン離脱(減薬)の過程で、あるいは、離脱(断薬)を終えたあとで、患者が時に直面するジレンマとして、耐え難い症状が何週間経過しても軽減しない場合どうすべきか、という問題があります。ベンゾジアゼピンをまだ服薬中の場合、用量を増量すべきか?すでに断薬している場合、ベンゾジアゼピンを再服薬し、もう一度、減薬プロセスをやり直すべきか?これは、あらゆるベンゾジアゼピン問題と同様に、環境や個人によってある程度異なる、判断が難しい状況であり、確固とした決まったルールはありません。

離脱(断薬)後の再服薬は? この状況にあるベンゾジアゼピン服用者の多くは、離脱が早すぎた人達です。中には、‘cold turkey (突然の断薬をして禁断状態にすること)’を行った人もいます。彼らは、ベンゾジアゼピンを再服薬して、より緩徐な減薬スケジュールをやり直したなら、離脱はもっとうまくいくだろうと考えます。しかし残念ながら、そうは簡単にいかないのです。理由は明らかではないですが(おそらく最初の離脱の経験により、既に神経システムが過敏になり、不安レベルが跳ね上がっているからでしょう)、当初のベンゾジアゼピンの用量では、二度目には効果がないことがしばしばあります。増量した場合にだけ、症状がある程度緩和する人もいるかもしれません。そして彼らは、そこから更にもう一度、長い漸減プロセスをやり抜かなければいけませんが、結局、再び離脱症状が消えない場合もあるのです。(緩和する可能性もあれば、悪化する可能性もあります。)

離脱(減薬)中の増量は?

ベンゾジアゼピンの減薬プロセス中、“困難な状況 (sticky patch)”に直面する人がいます。多くの場合、離脱スケジュールを再開する前に、同じ用量をより長期間(数週間以内)維持する事で、この問題を克服する事が可能です。しかしながら、待ち望むプラトー期(安定期)が来る前に増量することは得策ではありません。実際、スケジュール中にベンゾジアゼピンを一定の用量で保つとき、誰も決して‘安定’することはありません。用量は一定であっても、離脱症状は一定ではありません(軽減します)。歯を食いしばって、離脱を継続する事が得策です。真の回復とは、薬が身体全体から抜け出て初めて、本当にスタートするのです。

薬理学的にみると、再服薬も増量も実際に理にかなってはいません。もし離脱症状がまだ存在しているなら、それはGABA/ベンゾジアゼピン受容体が完全に回復していないことを意味しています(前述参考)。更なるベンゾジアゼピン服用は、受容体の更なる下方制御をもたらし、依存を強め、離脱を長期化させ、回復を遅らせ、そして遷延性の症状につながる可能性があります。一般に、ベンゾジアゼピンを長期服用すればするほど、より離脱が困難になります。概して、何週間も、あるいは何ヶ月間も、ベンゾジアゼピンを止めていたり、同じ用量を維持していたりする場合は誰でも、再服薬あるいは増量するようにアドバイスを受けることがあるかもしれません。しかし、これは賢明ではありません。むしろ、思考を個々の症状の解決や、アドバイスやサポートを得る場所を見つけることに向けさせることがより重要でしょう。個々の症状の対処法についてのアドバイスは、マニュアル(第Ⅲ章)に示されています。


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栄養補助剤(サプリメント) 2012年4月12日追記

ビタミン、ミネラル、アミノ酸などの栄養補助剤(サプリメント)がベンゾジアゼピン離脱に有効というエビデンスはありません。中には、過剰に使用すると有毒なものや、ベンゾジアゼピンそのものと変わらない有害作用を持つ、ベンゾジアゼピン類似の物質を含むものさえあります。また、ベンゾジアゼピン離脱がビタミンやミネラルなどの欠乏をもたらすことを示唆するいかなるエビデンスも存在しません。何か特定の欠乏が存在するという明確な証拠なしに、栄養補助剤を使用すべきではありません。複合型栄養補助剤(マルチサプリメント)を推奨する人は、まず何らかの欠乏の証拠を示し、そして適切な比較対照試験を行うべきです。特に、GABAの前駆物質の服用により、脳内のGABA濃度が上昇することはありません。また、ベンゾジアゼピンはGABA濃度を低下させません。代わりに、GABA受容体のGABAに対する親和性を変化させます。これは栄養補助剤を必要とすることなく、ゆっくりと回復していきます。栄養補助剤がこの回復を早めるというエビデンスはありません。ベンゾジアゼピンを服用中あるいは離脱中の人は、バランスのとれた普通の健康的な食事をとるべきです。結局のところ、普通の健康的な食事とは“天然”の物質からなり、そこには、身体にとって必要な成分が全て含まれているのです。

これまでに人々が試してみたところ、精々が無益、最悪の場合有害と分かった製品としては以下のものがあります。: ミネラル/ビタミンサプリメント、ヴァレリアン(西洋カノコ草)、セント・ジョーンズ・ワート(西洋オトギリ草)、カバカバ、メラトニン、レスキュー・レメディ(バッチフラワー)、BeCalm'd、コリン、ノニジュース、5HTP、SAMe(サムイー)、GABA。最近では、Exhilarinと呼ばれる製品の有害作用を報告した人がいます(Terriさんのストーリーを参照)。


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ベンゾジアゼピンの代謝(サプリメント) 2012年11月21日追記

It has long been known that there is a wide variation between individuals in the rate at which they metabolise psychotropic drugs, including benzodiazepines, antidepressants and antipsychotics. People can be poor or slow metabolisers, normal metabolisers, or extensive metabolisers for these drugs, depending on the genetically determined activity of certain drug metabolising enzymes (CYP450 2D6 enzymes). In particular, there appear to be more poor and slow metabolisers among Asian patients than in European populations, according to an important US study. This means that Asian patients respond to lower doses and experience more serious side-effects on standard doses of benzodiazepines than other ethnic groups.

These days when multi-ethnic populations, including many people of Asian extraction, exist world-wide, doctors and psychiatrists may need to be reminded that in Asian patients, benzodiazepine (and antidepressant or antipsychotic) prescriptions, if considered necessary, should be started at half the standard dose in case they are poor or slow metabolisers.


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結 論

この追補で示されたアドバイスや解説は十分ではないかもしれません。それらは、間違いなく、いかに我々が依然としてベンゾジアゼピンについて更に知る必要があるかを示しています。しかしながら、ベンゾジアゼピン長期服用者のうちはるかに大多数の人たちが、時間をかければ、離脱から回復することを知っておくことは重要です。遷延性の症状でさえも、場合によっては数年かかることもありますが、徐々に減少していく傾向を示しているのです。薬からの実際の離脱は、回復への最初の一歩に過ぎないということを知ってください。その次に、身体に対して、また多くの場合、人生そのものに対してもたらされたダメージを可能な限り修復しなければいけない長い回復期間が訪れるでしょう。しかし、脳は、身体の他の部分と同じように、計り知れない適応力、自己治癒力を持っています。そうやって生命は生き抜いていき、たとえ過去にベンゾジアゼピン‘中毒者’であったとしても、自身の将来に楽観的になることが出来るのです。


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連絡先

Barry Haslam,
OLDHAM TRANX,
7 School Street,
Uppermill,
OLDHAM
OL3 6HB
Email Barry Haslam

Bristol & District Tranquilliser Project,
88 Henleaze Road,
Henleaze,
BRISTOL
BS9 4JY
Email bristranx@hotmail.com

Jon Royle,
The Bridge Project,
Services for Drug Users,
35 Salem Street,
BRADFORD
BD1 4QH
The Bridge Project Website
Email Jon Royle

Council for Information on Tranquillisers and Antidepressants (CITA),
The JDI Centre,
3-11 Mersey View,
Waterloo,
LIVERPOOL
L2 2A
Email CITA

Mrs. Geraldine Burns,
3 Searle Road,
BOSTON,
Massachusetts 02132,
U.S.A.
Email Geraldine Burns

彼女はベンゾジアゼピン服用者によって出版された全ての本を販売しています。

サポートと連絡先のページも参照してください。

 


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